上腕二頭筋長頭腱炎(力こぶの筋肉の炎症)を詳しく解説

2021年12月4日

肩の痛い人に多い?上腕二頭筋長頭腱炎とは何か?

・上腕二頭筋。この筋肉の名前は力こぶの筋肉として有名ですが、上腕二頭筋長頭腱炎・・・という名称は聞きなれない人も多いと思います。

 図1にあるように筋肉は骨から骨についていて、力こぶの部分を筋腹、筋肉が骨につくところが腱になります。簡単に言えば、その腱が炎症を起こしている状態です。

・上腕二頭筋は腕から肩にかけての筋肉ですが、よく痛みを訴えるのは肩の方です。肩が痛くて来院したら、この筋肉が原因と言われる人も多いですね。では、何でこの筋肉が痛くなるのか?この筋肉が痛いと何故肩に痛みがでるのか?見ていきましょう。痛くなるのには必ず原因があり、その原因が意外な所からと言う事もあります。原因を治さないと治らないですからね。

上腕二頭筋とは?

図①A

図①B

・(図①A)は上腕二頭筋です。名前の通り、長頭と短頭の二つがあります。長頭は肩甲骨関節上結節から、短頭は烏口突起から橈骨粗面に付着します。長頭の方は日本ハムの斎藤佑樹投手が痛めた肩関節上方関節唇損傷(SLAP損傷)の原因となる腱です。同じ腱のお話ですが今回は肩関節前面における長頭腱炎のお話とさせて頂きます。

 この筋肉は主に肘の屈曲(曲げる)、前腕の回外(肘が直角の時に手の平を上に見せるように捻る)、上腕の屈曲(腕を前に上げる)という働きをしています。動きでわかるように、この筋肉は肘の動きや肩の動きに関係があります。

・(図①B)において、大結節と小結節との間の溝を結節間溝と言い、上腕二頭筋の長頭腱が結節間滑液鞘に包まれ通っています。また長頭腱が結節間溝から飛び出さないように、上腕横靭帯が大結節と小結節を覆っています。図①Bの場所が今回話をする【上腕二頭筋長頭腱炎】が起こる所です。ここで腱が繰り返し刺激を受けたり、強い刺激を受けて炎症を起こしてしまいます。

原因は?

・使い過ぎ、使い方がいつも同じ・・・上腕二頭筋腱は伸縮する際、結節間溝という狭いトンネルをスライドします。その元々ストレスのかかりやすい構造の為、滑液包(摩擦の軽減)などはありますが、繰り返しの動作や使う量が多いと摩擦が増え、腱が炎症します。炎症した腱は肥厚(太くなる)し、ますます擦れて更に炎症が強まり、更には滑液包炎を合併する場合もあります。そのため野球、バレーボール、ハンドボールなど繰り返しオーバーヘッド動作を行うスポーツで多く発症する傾向があります。

・肩関節の動きが硬い・・・肩関節の動きが硬いのも、この筋肉に負担をかけます。通常動きが硬いのにしっかり動かす場合、柔軟体操などをして動かしやすい状態にしますが、硬いまま動かすと無理やり動かす分いつもより力が多く入ってしまう。それを繰り返せば、上で話したように摩擦が増え、炎症を起こしてしまいます。

・※ローテーターカフ(回旋筋腱板)の筋力低下・・・一説には肩関節の支持機構であるローテーターカフが弱くなることで、この上腕二頭筋腱への負担が増えると言われています。

肩関節は骨頭(軸受の軸)が関節窩(関節の受け皿)より大きいので、関節の安定性が悪いです。

安定性を補強する役割としてローテーターカフと言われる筋肉があります。この筋肉群が筋力低下をすると肩関節の安定性が悪くなり、グラグラすることで上腕二頭筋腱と結節間溝の摩擦を強めてしまい、炎症がひどくなると言われています。実際にインナーマッスルを鍛えてもらったら痛みが減った方もいます。それ故、ローテーターカフの筋力低下は上腕二頭筋長頭腱炎に関係があると思われます。

・瞬間的に強い力がかかる・・・重いものなど持って瞬間的に負担が掛かると、断裂または一気に炎症が起こることもあります。力仕事をしている人に多いですね。

※棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋をまとめてローテーターカフと言う。

症状は?

腕を動かすと痛みが出る・・・状態にもよりますが、ある腕の動かし方で肩の前側に痛みが出る。特に結帯動作(エプロンの紐を締めるときの動作)で痛みが出るのが特徴。この動作により上腕二頭筋腱はかなり伸ばされるので、炎症をしている方は痛みを伴います。

見た目の腫れがでる・・・結節間溝部を押すと痛い、滑液包炎を合併する場合が多く結節間溝部に見た目の腫れが出てくる。

悪化すると腕の動きに制限が出てくる・・・初期のうちは痛みというよりは違和感の方が強く動かすこと自体は出来ますが、悪化してくると腕を前に挙げる、横に挙げるなど各動きに痛みが出て夜間痛を伴うこともあります。

最悪腱が切れることも・・・炎症が繰り返し起こり、それを放置していると腱の限界を超え、『ブチッ』と腱が切れることがあります。そうなると疾患名も変わり、【上腕二頭筋長頭腱炎】から【上腕二頭筋長頭腱断裂】となります。瞬間的に断裂を起こした場合は痛みを伴いますが、高齢になるといつの間にか切れていたなんてことも良くあります。断裂した場合、肘を曲げて力を入れた時に出来る力こぶが肘の方向に移動する、popeye sign(ポパイサイン)と言う現象が起こることがあります。例え断裂をしたとしても上腕二頭筋は長頭・短頭とあるので機能的な問題はなく、適切な治療・リハビリを行えば日常生活に支障はありません。年齢、スポーツレベルによっては手術を行う場合もあります。

その他疾患

・この上腕二頭筋長頭腱炎と近い所の、その他疾患を載せておきますね。

・滑液包炎・・・滑液包とは、簡単に言えば緩衝材です。肩関節には肩峰下滑液包、三角筋下滑液包など様々な滑液包があり、本疾患と複合して起こる場合があります。

・石灰沈着性腱板炎・・・肩関節の中に石灰と言われる物が突然現れ、肩に痛みが出ます。出てきた直後から手が使えないほどの痛みが出る場合もあります。夜寝るのもつらくなります。

・腱板損傷・・・ローテーターカフと呼ばれる肩関節を支持している筋肉群を損傷することで、肩周りの痛みや動きの制限が出てきます。また本疾患と複合して起こる場合があります。

テスト法

・この疾患を鑑別するテスト法がいくつかありますので紹介しておきます。

但し、この結果のみでこの疾患が確定するものではないので注意してください!

ヤーガソンテスト

このテストは患者を座らせて行う

①患者は痛い方の腕を脇につけ、肘関節は90度の直角に曲げる。この時手の平は下に向けるようにする。

②術者(テストする先生のこと)は一方の手を結節間溝部に置き、もう一方は患者の手を持つ。

③術者は患者の手を回内(手首を内側に捻る)方向に力を入れる。患者はその力に逆らうように回外(手首を外側に捻る)方向に力を入れる。

④その時に結節間溝部に痛みが出れば、テスト結果は陽性。

スピードテスト

このテストは患者を座らせて行う

①患者は痛い方の腕を前方に、水平の高さまで挙げる。

②術者はその腕を上から押すように抵抗をかける。患者は腕をその位置でキープする。

③結節間溝部に痛みが出れば陽性

治療期間は?完治はするが遅い?

以下の理由から、上腕二頭筋長頭腱炎は長引く傾向があります。

一番は他の疾患などと複合して起こる・・・私が見てきた中では上腕二頭筋長頭腱炎に複合して滑液包炎、棘上筋断裂、肩関節上方変位、変形性肩関節症、関節包の癒着及び関節拘縮など複合している場合がある。上腕二頭筋長頭腱炎と滑液包炎を併発していて、エコー画像上では長引きそうな例であっても一か月で可動域や痛みが完全にとれる人もいるので、一概には言えませんが他の合併では半年かかることもあります。

軽度な場合であれば、鍼を施し一回から数週間で治ることもあります。

原因がはっきりせず、進行していてもほっとく人が多い・・・日常や仕事の些細な動きとかが蓄積して徐々に痛めていく場合、

 初期症状が違和感程度なので様子を見る→じわじわ痛みが出てきて、悪化した頃にはだいぶ経ってるので治るまで時間がかかる

人間は決定打がないとなかなか気にしないのが現状です。時間が経てば経つほど状態も悪くなり、完治が遅くなります。何もしてなくても違和感があり、夜間の痛みで起きてしまうなどが続いている場合には早めに調べた方がいいですね。

痛めた所の回復力が遅い!・・・ 人間の組織は骨や筋肉、腱と色々ありますが、それぞれ回復力に違いがあります。

その違いに関係あるのが、【血流が良いか悪いか】です。この疾患は上腕二頭筋長頭の炎症です。腱は比較的血流の悪い組織の為、回復力が遅いわけです。その為、血流を良くすることを心がける事が回復力を早めるのに有効ですね。

但し、【痛みが強くなってるとき】【痛め始め】は血流を良くするとかえって痛みが強くなるので注意が必要です。

生活動作や仕事で使われてしまうことが多い・・・要は休ませる事が難しいと言うことですね。治療していく上で厄介なのは、痛い部分が動かされてしまうことです。これはある程度仕方がないことなのでしょうが、なるべく【動く量を減らす】【ずっと同じ動きをやり続けない】といいでしょうね。

なぜか??・・・こういうケガは普段の動きで痛める人が多いです。もちろんそれ以外に普段しないことをやって痛める人もいます。ただ、普段の動きで痛める場合、その動きの中に痛めてしまう原因があると思うので、改善しないと再発する可能性が高くなります。

この疾患は治らないものではないですが、上記のような様々な条件が重なることで治癒スピードが遅くなってしまい、完治まで時間がかかってしまいます。ただ、必ずしも当てはまるわけでもありません。エコー観察では滑液包炎を合併し炎症を画像上認めるが、実際そんなに長引かず早く治った方も見ています。

また、【何をして痛くなった】を理解し早めに対処すれば、完治するのが早くなります。

・上で話して来たことを解決することが、この疾患を治す・予防するのにとても大事になります。

守ることは【治りやすい環境を作る努力をする】【日々のケアを痛みがなくなっても継続すること】です。

治療法&予防法

筋トレ&ストレッチ

ストレッチはこちら https://shimizu-seikotsuin.com/blog/kata-sutoretti/

筋トレはこちら https://shimizu-seikotsuin.com/blog/kata-kintore/

・注意点は上で話したトレーニングと同じです。

 一回の回数一日のセット数その他
・上腕二頭筋10~30回朝、昼、夜の 3セット重りは「軽いな」と思ってきたら少しずつ重くする。
・棘上筋10~30回 理想はきつくなってきた所から+10回朝、昼、夜の 3セットゴムの強さは「軽いな」と思ってきたら強くする
・棘下筋 小円筋10~30回 理想はきつくなってきた所から+10回朝、昼、夜の 3セットゴムの強さは「軽いな」と思ってきたら強くする
・肩甲下筋10~30回 理想はきつくなってきた所から+10回朝、昼、夜の 3セットゴムの強さは「軽いな」と思ってきたら強くする

・各トレーニングの回数表ですが、基本は大体どれも一緒です。ただ、人により筋力量は違うので、必ず表に書いてある回数をやるわけではありません。できる回数から徐々にやっていきましょう。当院では細かな指導を行っておりますので、気になる方は何でも聞いてください

上腕二頭筋長頭腱炎の症例、エコー画像

症例1 68歳 女性 美容師

自宅にてベットから転倒した際に右肩を負傷。

腫脹著しく、肩関節前方挙上(屈曲)、後方挙上(伸展)、外転時痛を認める。

当院にてエコーで観察したところ、いくつか症状を確認。

正常な骨模型では結節間溝に上腕二頭筋長頭が滑走する。この骨模型をイメージしながら図1左肩健側のエコー画像を見ると左の白く映るのが小結節、右の白く映るのが大結節、その間の溝が結節間溝である。その溝をよく見ると、白く丸く映る上腕二頭筋長頭腱が納まっているのがわかる。

図1の短軸像で健側と患側を比べると、健側では結節間溝内に上腕二頭筋が納まっているが、患側では上腕二頭筋が腫れることにより大結節と小結節をつなぐベルト(横靭帯)も腫れているのがわかる。

図2は患側短軸像で図1より末梢方向に向かった場所であり、ドプラ検査を行うと赤や青に炎症反応があり、炎症反応の上には黒く映る滑液を認める。

図3患側長軸像でも同様に上腕二頭筋長頭が肥厚し、滑液及び炎症反応を認める。

診察後、アイシング、低周波治療を行い一週間の安静を指導した。

経過観察にて、私が思っている以上に疼痛が早期に軽減した。運動療法を行ったところ、一か月弱で疼痛及び可動域制限が完全に消失した。

最終日にエコーにて観察を行ったところ、画像上の変化は無いが痛みが無くなったので、また痛くなる可能性があることを伝え治癒とした。

基本的に炎症反応が強い場合、治療期間が長引くことが多い。ただ、他の疾患でも経験しているが炎症反応が強いからといって、必ずしも長期化するとは言えない。

症例2 85歳 女性

自宅にて荷物を持ち上げた際に右肩を負傷。

腫脹著しく、肩関節前方挙上(屈曲)、外転時痛、NEERテスト陽性を認める。

当院にてエコーで観察したところ、いくつか症状を確認。

図4の右肩患側短軸像では健側に比べ大結節、小結節の変形を認め、炎症反応及び上腕二頭筋長頭の肥厚により横靭帯が腫れているのがわかる。

図5の患側短軸像は図4より末梢方向に向かった場所で、ドプラ検査を行うと赤や青に炎症反応があり、上腕二頭筋長頭の周りを黒く映る滑液が包み込んでいるのがわかる。

図6患側長軸像でも同様に、上腕二頭筋長頭の周りを黒く映る滑液が包み込んでいるのがわかる。https://www.youtube.com/embed/XYuILkz9QIM?feature=oembed

患側短軸動画にて、結節間溝から末梢に向かい観察するとこのように映る。

この患者さんは二か月で疼痛及び可動域制限が完全に消失した為、治癒とした。

症例3 70歳 男性

自宅にて植木の剪定をしていた際に負傷。

腫脹著しく、肩関節前方挙上(屈曲)、後方挙上(伸展)、水平屈曲時痛、結帯動作にて疼痛増強を認める。

通常、上腕二頭筋は結節間溝内に納まっているが、まれに結節間溝から小結節に上腕二頭筋長頭が乗り上げている場合がある。上腕二頭筋長頭腱脱臼とも言う。

図7の画像を見ると健側、患側ともに脱臼しているのがわかる。脱臼しているから痛みが出ているのかは疑問な点があるが、正常な位置関係にないことにより上腕二頭筋にかかる張力が増すのは間違いない。

患側を見てみると滑液及びドプラ反応を認める。

図8長軸像でも同様に滑液及びドプラ反応を認める。

図9では上腕二頭筋長軸像から小結節側にスライドした際に滑液及びドプラ反応を認めた。

この患者さんも二か月で疼痛及び可動域制限が完全に消失した為、治癒とした。

最後に

・今回は【上腕二頭筋長頭腱炎】についてお話してきましたが、この疾患も日常でよく見かけることが多いですね。また、色々な疾患が複合して起こってくる場合が多く長引くことも多いです。昔とある整形外科医が言っていましたが、肩関節の疾患でレントゲンだけでは1割しか判断できない、エコーなら残りの9割がわかる。肩の痛みに関して、骨が原因で痛くなるものは骨折や変形や石灰などがありますが、割合で言えば圧倒的に軟部組織によるものが多いです。痛みが改善しない場合はレントゲンだけではなく、エコーやMRIを撮り評価をすることが大事だと私は思います。当院では、問診、視診、触診、徒手検査等で状態を把握し、その後エコーにて更に詳しく観察をしていきますので、肩の痛みでお困りの方は気軽にご相談ください。